そろばん式脳トレーニング®と珠算(そろばんを使った計算)の最も違う点

 そろばん式脳トレーニング®という言葉に触れた多くの方は、

「あ~、そろばんを使って計算することで脳のトレーニングをしようということか」

 と考えられる方が非常に多いのですが、そろばん式脳トレーニング®と珠算(そろばんを使った計算)はコンセプトも目的も内容も全く違うものです。今回はこのことについて、できるだけ詳しく説明をしたいと思います。

目次

開発のきっかけになった認知症という社会的な課題

 認知症になってしまうと個人的にも社会全体としても、非常に大きな経済的負担が発生します。個人の場合は、それまで働いていた場合は収入が途絶えてしまったり、ご本人だけでなく、ご家族も介護のために働けなくなってしまうケースが非常に多いです。いわゆる介護離職です。現状、介護離職の中心は高齢の親を介護する40代、50代が中心と言われています。働き盛りの人が中心ですね。
 収入が減ったりなくなったりするだけでなく、介護や治療のための支出も発生します。この経済的負担だけでも、非常に大きな負担になりますが、それだけでなく心理的、精神的に追い詰められるケースも多く、出口の見えないトンネルを進んでいくような感覚になると仰る方も多いです。
 社会全体としても、医療費や介護費などで社会的費用として年間15兆円以上の額が必要とも言われていますし、今後、その額が増えていくことは確実視されています。

 こうした状況から、認知症予防という課題に対して、騙し騙し取り組むのではなく、正面から取り組む必要があるとの考えに至りました。そして、その取り組み、研究の結果から、そろばん式脳トレーニング®️というトレーニング法が生み出されました。
 当初は、子供達と同じようにそろばんを使って計算をすれば指先を動かすので認知症予防にもなるだろうと考え、活動を開始しましたが、研究を進めれば進めるほど、そんな単純なものではないという事実に直面します。そろばんを使って計算することで多少の脳の活動は得られますが、いくらそれを積み重ねていっても、それはやはり騙し騙しの活動に過ぎません。だからこそ、目的を「認知症予防」に特化し、そのトレーニングを追求する必要がありました。

目的(コンセプト)の違い

そろばん式脳トレーニング®️のコンセプト

 そろばん式脳トレーニング®️は認知症予防、そして、その為の「大人の脳の活性化」という目的に徹底的にこだわっています。ここが、珠算(そろばんを使った計算)との最も大きな違いです。このコンセプトの為にトレーニング方法を最適化したのが、そろばん式脳トレーニング®️ということになります

 具体的な内容については、後ほど例を挙げて解説します。

珠算のコンセプト

 珠算も指先を動かし、単純な計算を含むから認知症予防に効果があると考える人もいますが、残念ながら、この認識は正しくありません。弊社の研究でもこれは明らかになっています。確かに一部の要素は認知症予防にも多少効きますが、珠算の目的はあくまでも、そろばんを使って速く正確に計算結果を出す、ということです。この、「そろばんを使って」「速く」「正確に」「計算結果を出す」という目的を追求すればするほど、認知症予防に必要な要素が損なわれるのです。

 例えば、「速く」そろばんを弾く為には、できるだけそろばんの操作に慣れ、ある程度、無意識に指が動かせるようになる必要があります。しかし、そろばんの操作に慣れれば慣れるほど、認知症予防という目的を達成するために必要な脳への刺激が減ります。認知症予防の為には海馬と呼ばれる脳の部位を鍛える必要もありますが、これも珠算では不十分なのです。

中身の違い

珠算の内容

 珠算で「速く正確に計算結果を出す」為には効率的な指使いが必要です。珠算での「正しい指使い」と呼ばれるものは主に右手の人差し指(示指)と親指(母指)を使います。珠算のエキスパートになれば左手の人差し指などを使う人もいますが、薬指(環指)や小指(こゆび)は使いません。

 動かしにくい環指や小指ではなく、比較的動かしやすい示指や母指を使うのが珠算です。珠算の目的が「速く正しく計算結果を出す」ことである以上、これは当然のことです。

 しかし、環指や小指を使うと、より脳の広範囲が働くということが、大学などの研究者の実験でわかっています。

 →複雑な指運動は本当に脳の活動を促すのか?

 珠算も未経験者やブランクのある方が久しぶりにやった場合、最初のうちは脳も活性化してくれます。しかし、継続的にやっていくうちに「慣れ」が発生するということもあり、皮肉なことに珠算技能が向上すればするほど、認知症予防への効果は薄れてしまいます。「認知症予防」ということを目的とするならば、これが珠算の最大の弱点と言えるかもしれません。

 そろばんは数をイメージとして認識する効果はあります。これは子供達の学習にとってはとても効果的ですが、大人が認知症予防を目的とした場合に効果があるとは言えません。

 同じ脳トレーニングという言葉を使ったとしても、子供たちに有効な脳トレーニングは学力向上や計算力向上、情報処理能力の向上が目的であり、そのためには珠算式の暗算や珠算は確かに効果があります。しかし、子供たちが行うような、そろばんを使った計算のトレーニングや暗算のトレーニングは、大人が、認知症予防を目的とする脳トレーニングとしては、とても的外れなことをやっているということになります。

 大脳と手指の神経は繋がっている、とも言われます。これは確かです。確かですが、脳からの指令を手指に送る神経伝導機能を鍛えるということと、脳そのものを鍛えるということを混同してはいけません。認知症を予防するためには、あくまでも脳そのものの機能を鍛える為の脳トレーニングを行う必要があります。指先を動かせば良いという単純なものではない、ということはこうした点からも明らかです。

そろばん式脳トレーニング®️の内容

 そろばん式脳トレーニング®️の目的は冒頭にも書いた通り、あくまでも「認知症予防」であり、それに必要な大人の為の「脳の活性化」です。その目的に徹底的にこだわっています。珠算は、その目的が「速く正確に計算結果を出す」以上、「認知症予防」という目的を達成するには極めて不十分です。

 このため、そろばん式脳トレーニング®️は、珠算では限定的にしか効果を発揮しない要素を抽出して、トレーニング方法に落とし込んだり、珠算では実現できない要素を組み入れたりすることで、「認知症予防」の目的で最も効果が得られるように体系化されています。

 認知症予防のためには、脳のどの部位を鍛える必要があるか、という点についても、そろばん式脳トレーニング®️は、きちんと検証をしています。そろばんを使って計算するだけでは、鍛えられない部位がたくさんあります。また、脳の血流量を増やせば良いという単純なものでもありません。認知症を予防するということに真摯に向き合うためには「指先を動かすから」「脳の血流量を増やすから」認知症予防に効果があるだろう、という憶測で行うのではなく、きちんと研究や実験を積み重ね、一つ一つ、本当に効果のあるトレーニングになっているかを検証することが大切です。

 弊社はそろばん関連事業者なので、そろばんを使って計算をすれば認知症予防にも効果はありますよ、と言いたいところです。しかし、憶測や(そろばん関連事業者としての)願望でそろばんを使うのではなく、効果の薄いもの、効果のないものは、それをきちんと受け止め、開示し、「認知症予防」という目的を達成するために誠実に取り組みたいと考えています。

 認知症という社会課題の状況の改善は、誠実に真摯に取り組むことでしか実現できない、というのが弊社の揺るぎない想いです。

そろばん式脳トレーニング®️の具体例(そろばんを使わないもの)

 そろばん式脳トレーニングは、そもそも、そろばん道具を使わないトレーニングも多数あります。そろばん道具が不要なトレーニングの具体例をいくつか挙げておきましょう。

そろばん式指体操 タイプ1

そろばん式指体操 タイプ1

 これは、そろばん道具の特徴を取り入れ、それを指で表現する指体操です。そろばん式指体操と言います。このトレーニングでは、珠算では使用しない環指(薬指)や小指もしっかり大きく動かすことで、脳の多くの部分をより多く動かすことができます。そろばん式指体操には色々なタイプがあり、タイプによっては右手だけでなく左手も動かすものもあり、左右両手の全ての指を、決められたルールで動かすものもあります。

そろばん式指計算

そろばん式指計算 レベル1

 単純な計算の要素と、薬指(環指)や小指も大きく動かし、より効果の高くなる指計算です。そろばん式指体操同様、そろばん式脳トレーニングの代表的なトレーニングです。上記のリンクはレベル1という最も簡単なレベルですがレベルが上がってくれば、左右両方すべての指を使うトレーニングも出てきます。また、慣れを排除するために色々なバリエーションがあります。動画の後半部分では、どういった部分がそろばん式であり、どの要素が認知症予防に効果があるかを説明していますので、興味のある方は最後までご覧頂けると良いのではと思います。

時計読み(アナログ時計バージョン)

時計読み(アナログ時計バージョン)

 こちらは一見すると、どこがそろばん式なのかがわかりにくいかもしれません。動画の中でも言及していますが、珠算の要素の中で効果的なものを抽出し、トレーニング方法に落とし込んだものです。コツを掴めばそれほど難しいものではありませんが、意識をして取り組まないと正しく読めません。

そろばん式脳トレーニング®️の具体例(そろばんを使うもの)

一般的な見取算(加減算)と認知症予防に効果を発揮する見取算(加減算)

そろばんでの一般的な見取算(加減算)

 以下は一般的な見取算(加減算)です。上から順番に加減算を行って一番下の欄に答えを書きます。

 こうした問題を数多く練習すると計算力は上がります。そろばんの操作の習熟度も上がります。それが珠算の目的である以上、当然そうならないとダメなわけです。習熟度が上がれば上がるほど、無意識に指が動いてくれるようになります。しかし、そうなればなるほど「認知症予防」という点では効果は薄れていきます。

認知症予防に効果を発揮する見取算(加減算)

 以下も上記と同様に加減算をする問題です。引き算が入っていますがポイントはそこではありません。最初の1行目を除いて全て引き算になっていきます。そして答えは「0」になります。答えが「0」になることがわかっているので、最後に、そろばんの盤面がゼロになれば正解ということになります。
 引き算が苦手な子供に特別に以下のような問題を練習させる場合はありますが、答えが「0」だとわかっているので、計算力の向上ということを目的とするならば通常は使いません。

 これが何故、脳に効くのかというと、最後にゼロになることで脳が達成感を感じてドーパミンという脳内物質を分泌するからです。認知症には、アルツハイマー型認知症、脳血管型認知症、レビー小体型認知症など色々なタイプの認知症がありますが、タイプによってはドーパミンの分泌というのは、認知症予防にとって一つの重要な要素になります。

大切なのは「何をやるか」以上に「どうやるか」ということ

 そろばん式脳トレーニングは書籍にもなっていますし、上記で紹介したYoutube公式チャンネルでも、どういったことをやれば良いのかがわかります。しかし、実は最も大切なことは、認知症予防のためには「何をやるか」以上に「どうやるか」ということです。
 そろばん式脳トレーニング®️の認定インストラクターは、この「どうやるか」についての研修をきちんと受け、その理論を学んでいます。また、トレーニングは研究や実証、実験をうけ、常に進化をしています。こちらのページでも紹介しているインストラクターからは効果的なトレーニングを受講することができますので、興味のある方はお近くのインストラクターにお問い合わせください。

 また、理論の学習をできる講座もあります。これらの講座はインストラクターの養成も兼ねていますので、より深い学習が可能です。こちらに興味のある方は、弊社まで直接お問い合わせください。

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