今回、ご紹介する「そろばん式脳トレーニング®︎」は、「時計読み(アナログ時計バージョン)」です。これも、珠算(そろばんを使っての計算)や珠算式暗算(そろばん式暗算)のコンセプトの中から、大人の脳の若返り、脳の活性化、ひいては認知症予防に必要な要素を抽出しトレーニングに落とし込んだものです。
今回は、そんな、アナログ時計を使った脳トレーニングを解説します。
注意点
もし、認知症やMCI(軽度認知障害)などの症状で、現時点でアナログ時計を読めない場合、このトレーニングを無理にやるのは避けましょう。「アナログ時計を読めないから、そのリハビリに」と考える方もいらっしゃいますが、アナログ時計を読めない方には逆効果になる可能性があります。
認知症予防を含む脳の活性化には、難しいこと、できないことを一生懸命やるよりも、適切な難易度のものを数多く繰り返してやる方が効果が高いです。そして、適切な難易度とは多くの場合、比較的簡単なものになるケースが多いです。
時計読み(アナログ時計バージョン)
ルール
赤い時計が出てきた時は、その時計が示す時刻を読んでください。そして、この赤い時計の時刻を一時記憶します。赤い時計の時刻は、次に赤い時計が出てくるまでの基準時間となります。
黒い時計が出てきた時は、直近に出てきた赤い時計(基準時間)と比べて、後の時間だったら「後」と読み、前の時間だったら「前」と読みます。
午前と午後を跨ぐということは考えません。すべて午前、もしくはすべて午後と考えてやってみましょう。例えば、赤い時計で11時55分と出た後に、12時10分と出ると、「後」と答えたくなりますが、全て午前だと考えると12時10分は11時55分より前なので「前」と答えることになります。
使用している珠算の要素
数字ではなくイメージとして数量を表している
アナログ時計は、時間と言う数的なものを数字ではなく、長針と短針が指す方向の組み合わせで表現します。そろばんも数量を数字ではなく、そろばんの珠(たま)を使って表現します。この数的なもの、数量を、数字ではなくイメージ(画像)として表わす点が、アナログ時計とそろばんの共通点です。
さらに純粋な十進法ではない、という共通点もあります。時計が12進法や60進法というのはご存じかと思いますが、そろばんも実は純粋な十進法ではありません。そろばんは、二五進法(にごしんほう)という方法で数を表現します。
ある状態を一時記憶しながら処理を続けていく(ワーキングメモリーを鍛える)
珠算では、掛け算や割り算では掛ける数や割る数を一時記憶しながら計算処理を行うということをします。その他の計算でも、一時的に数を記憶して処理することは多くあります。この時、脳の一時記憶領域、ワーキングメモリーを使用します。
今回のトレーニングも、赤い時計の時刻を脳のワーキングメモリーに記憶しておきながら、処理をしていくということを行っています。
珠算とは違った効果
珠算では一時記憶するのは数だけです。一方、今回のトレーニングで記憶するのは時刻です。脳の一時記憶領域を鍛えるということは、すなわち海馬を鍛えるということです。認知症の中で最も多いタイプのアルツハイマー型認知症では海馬の萎縮が見られるため、海馬を鍛えることは認知症予防にはとても大切なことということになります。
今回のトレーニングではアナログ時計で表現された時刻を一時記憶しました。そろばん式脳トレーニングでは色々種類のトレーニングを使い、それぞれ違ったものやイメージを一時記憶する訓練となっています。これは脳に「慣れ」を生じさせない為です。珠算では、その本来の目的である早く正しい計算結果を出す為には、脳が慣れてくれないとダメですが、大人の脳の活性化のためには、適度に「慣れ」を排除することが重要です。
また、「声に出す」というのも脳の活性化に有効です。これも子供達が学習する計算力アップの為の珠算には無い要素です。大人が、脳の活性化のために取り組む場合は積極的に声に出すトレーニングをやると良いでしょう。
認知症になるとアナログ時計をよめなくなることも
認知症が進行すると、デジタル時計は読めるけれどもアナログ時計は読めない。あるいは、その逆というケースが出てきます。デジタル時計は数字で時間を表現しますが、アナログ時計は長針と短針の組み合わせで時間を表現します。つまりアナログ時計は数字ではなく、イメージで時間を表現しているということになります。
数字ではなくイメージで表現するというのは、デジタル時計や、10進数の数字で表記する数や量とは違った脳の使い方が必要と考えられます。認知症になるとアナログ時計を読めなくなるというケースも多いですが、アナログ時計とデジタル時計を同じタイミングで読めなくなるケースはほとんどありません。このことから、脳の中で違う捉え方をしているということは確かでしょう。