Webメディアからの取材(ロングインタビュー)

昨年、あるWebメディアの取材を受けました。内容は私のそろばん関係の仕事について。今回は弊社の子供向け直営教室「川西珠算学院」の学院長としての取材でした。半分以上はカットされるでしょうから、まとめの意味も込めてここに採録しておきます。


インタビュアー:川西さんご自身について

私の今のところの本業は会社経営。そろばん関連事業の会社(株式会社WakuWaku&Life)を経営していますが、普通のそろばん教室とはちょっと違います。我が社は海外事業と、国内に関しては大人向けの事業をメインにしています。海外は今のところは子供向けのみですが将来は認知症予防事業として広げていく計画もあります。国内でも子供向け教室はやってはいますが、従来のそろばん教室とは違って、現在のニーズに合わせた方針で運営をしています。


インタビュアー:川西珠算学院は55年以上の歴史があるということですが?

まず、私のそろばんとの関わりを最初にお話しておかなければなりません。私は子供の頃、そろばんを習っていました。自分自身の記憶では、小学校の6年間と、その前後半年ずつくらいの合計7年間くらいはマトモにやっていたと思います。なぜ、そろばんを習い始めたかというと、実家、つまり両親がそろばん教室を経営していたから。当時は自宅の一角が教室になっていて、自分からやりたいと言ったそうです。

一応、珠算、暗算ともに五段まで取得し、小学生の時には大阪府大会で優勝した(そろばん大阪一の栄誉を頂いた)ものの、そろばんは好きではありませんでした。いや、はっきり言うと嫌いでした。

なぜか。

私は子供の頃、スポーツパーソンで、運動や運動系の遊びが大好きでした。だけど、珠算の競技大会や検定試験前になると、突き指などで怪我をしない為にボール遊びをするなと父に言われていて、この影響が大きかったんだと思います。早くそろばんを辞めたいとずっと思っていました。

中学に入って間もない頃、父から「もうこれからは、そろばんの時代じゃないから、そろばんはもう辞めても良い。普通に高校や大学に行って、そろばんとは関係のない仕事に就け」と言われました。そう言われた時は、「やっとそろばんを辞められる」と、とても嬉しかったことを今でも覚えています。

その後、父の言うように、高校、大学に進学し、大学卒業後はIT企業に就職しました。IT企業を選んだのは、これからはITの時代と考えたからに他なりません。父から「これからはそろばんの時代ではない」と言われたこともあり、心のどこかで、「時代遅れのもの(=そろばん)をやっていた」ということ自体がずっと嫌でもありました。思春期の男子(私)にとって、そろばんは時代遅れのカッコ悪い、ダサいものだったのです。だからこそ、最先端の仕事であるITに目を向けたのだと思います。ただ、その会社で定年まで勤めあげることは考えておらず、10年程度で独立して起業しようと思っていました。そうした野心もあり、最初はエンジニアとして仕事をしていましたが、サラリーマンキャリアの後半は企業財務、会計、マーケティングなどのコンサルタントの業務に従事していました。企業経営に必要なものを実務の中で身につけていったという感じでしょうか。


インタビュアー:なぜ、そろばんの仕事を?きっかけは?

いよいよ2005年。IT事業での起業準備を始めます。ところが、そのタイミングで、川西珠算学院の経営をしていた私の父が亡くなります。また、同じタイミングで、今度は母が病気になり、入院・手術が必要という状況になりました。勤めていた会社を退職し、会社設立準備を兼ねて半年から一年くらいはゆっくりしようと思っていた矢先のことです。当時は少ないながらも川西珠算学院には、生徒がいましたので、手術が必要な母が治療に専念できるようにと、私が川西珠算学院の代行授業を行うことにしました。しかし、既述の通り私はそろばんを好きではありませんでした。ですから、そろばんの授業の代行はあくまでも一時的なもの、母が退院してくるまでの10日間程度のものとしか考えていませんでした。

ところが母の代行授業をした時に、子供たちが、とても楽しそうにそろばんをしているのです。そして、「そろばん楽しいの?」と聞いてみると、みんな一様に「楽しい」と言います。そろばんが嫌いだった私にはとても衝撃的な言葉でした。そして、子供たちは続けて、「僕、大人になったらそろばんの先生になりたい」「私もそろばんの先生になりたい」というようなことを言うのです。

その時、私の頭の中に父の言葉がフラッシュバックします。

「もう、これからはそろばんの時代じゃないから」

しかし、目の前では、子供たちが楽しそうにそろばん学習をし、先生になりたいとさえ言ってくれています。2005年のそろばん教室というのは、もう誰が見ても斜陽産業という状況です。
この時、私は、この子たちの為にも、この子たちが大人になる頃には、そろばんの先生という仕事を、誰もが憧れる仕事、やっていて誇れる仕事にしてあげなければならないのではないかと考えるようになりました。

マーケティングコンサルタントという視点で、そろばん業界を外から見ていた私は、「なんてもったいない業界なんだろう」と常々思っていましたし、そろばんの持つコンテンツパワーは本物だとずっと思っていました。そして、私自身が大学まで行けたのは、両親がそろばん教室をやっていたおかげでもある訳です。

そうして、IT事業での起業から方向転換。そろばんの仕事をすることにしました。恩返しというほどの大そうなものではありませんが、少しでもそろばん業界が良い方向に向かうと良いな、その為の一助になればよいな。なにより、今、そろばんを頑張っている子供たちに、そろばんをやっていたことを誇れるようにしてあげたいなという思いからはじまった、私のそろばん第二幕でした。


インタビュアー:なるほど。では、その後、どのような取り組みをされましたか?

2005年当初、そろばんが斜陽産業化しつつあった中、私が取り組んだのは、海外進出と、国内はシニア向けの認知症予防事業です。そろばんというコンテンツを違うベクトルに乗せる活動に注力したのです。この辺りの話は今回の取材の本筋とはズレるので、割愛しますが、結果的には海外で培ったそろばん教育事業や、認知症予防を目的としたそろばんの使い方のノウハウを転用することで、国内の子供向けも、従来のような珠算一辺倒ではなく、脳力開発や知能育成、あるいは幼児向けの教育メソッドを構築することに成功しました。

川西珠算学院は55年以上の歴史があり、競技大会などで優秀な成績を収めていた時代もありますので、伝統的で本物の珠算教育ノウハウを有しています。そして、現在、川西珠算学院はそうした伝統的で本物の珠算教育の礎の上に、珠算だけではない、社会に出て本当に役に立つ能力育成のためのそろばん教育を提供しています。


インタビュアー:今の川西珠算学院について教えて下さい。

川西珠算学院としては直営校で大阪府豊中市に3校あります。また、川西珠算学院の運営会社である株式会社WakuWaku&Lifeとしては、直営校以外にも、学童保育でのそろばん指導を行っていたり、国内外の学習塾や教育機関へのノウハウ提供にも力を入れています。

また、昨年からは、オンラインコース、ハイブリッドコース(オンラインと通塾を組み合わせたコース)も開設しました。オンラインコースやハイブリッドコースを開設したきっかけは、新型コロナウイルス禍です。オンラインに関しては、開設当初は、指導という点で難しい面があったものの、会社を挙げてオンラインの特性を活かした指導・運営ノウハウ構築に奔走したかいもあり、今では、スムーズな運営ができています。これまでもオンラインレッスンに必要なシステム構築に大きな投資をしてきましたが、今をゴールとせず、常に改善をすべく今後もシステムへの投資は続けていきます。

最近では特に、ハイブリッドコースを選択している生徒の学力の伸びを感じることが多くなりました。これは想定外の嬉しい誤算で、私の想像以上の教育効果でした。当学院は近隣他市からの通塾生が多いこともあり、通塾回数を減らすことができるという点でのメリットもあります。高い教育効果を得ることができる上に、保護者の方のご負担の軽減にもつながっているようです。

ハイブリッドコースは通塾と組み合わせたコースですので、他市とはいえ、どうしても近隣の生徒さんが対象になります。一方、オンラインコースはお住まいの地域は関係ありません。オンラインレッスンへのシステム投資とノウハウ構築を続けてきた結果、どこにいても、教室で受講するのと同等の高品質なレッスンを受講することができるようになりました。オンラインレッスンでは、地元の珠算教室に通っているけれども、思うように暗算が身につかないなどの理由で、当学院のオンラインコースと併用される生徒さんもいらっしゃいます。


インタビュアー:珠算教室に通っても暗算が身につかない場合があるんですか?

珠算式の暗算でよくある誤解を2つほど紹介しておきます。

まず、珠算式暗算は珠算を習えば自動的に身につくものではありません。きちんとしたカリキュラム、ノウハウで珠算式暗算の練習をする必要があるということです。

もう一つはフラッシュ暗算の練習をしていれば珠算式の暗算が自動的に身につくというのも誤解です。

とても残念なことですが、そろばんを習ってて、フラッシュ暗算の練習も教室でしてるのに、全然身につかないという子供の保護者の声を聞くことが最近多くなりました。フラッシュ暗算用のパソコンが教室に置いてあっても、幼児教育や初等教育の知識を含めたきちんとした理論の下、練習をしないと思ったような効果が得られないということは覚えておいて損はないでしょう。


インタビュアー:川西珠算学院の特長として、幼児教育と基礎脳力向上(知能育成・能力開発)とあります。これについて、詳しく教えて下さい。

幼児教育(就学前教育)と初等教育(小学校での教育)は違います。この辺りは基本的な教育学の話になりますが、意外と幼児教育と初等教育が同じ目線で語られることも多いようです。川西珠算学院では、この辺りの基本的な違いを踏まえた上で、しっかりとした教育理論のもと、子供たちに珠算や暗算指導を行っています。

基礎脳力」という言葉は当学院が名付けた言葉で、これはスポーツで言う基礎体力に相当するものです。多くのスポーツ(種目)において、技術も大切ですが、基礎体力(走力や筋力、持久力など)はもっと大切です。野球やサッカー、テニス、水泳など、どの種目においても、技術があっても基礎的な体力が無いと話になりません。勉強でも同じことが言えます。算数、数学、国語、英語など、どの科目でも基礎的な脳力が無いといくら知識だけを詰め込んでも応用が利きません。


インタビュアー:知識だけを詰め込まないということですね。

「知能」「知識」「知恵」をきちんと使い分けられますか?

「知能」とはスポーツで言うところの運動神経のようなものと言えばわかりやすいでしょうか。ある程度は、持って生まれた能力ですが、適切な教育で、ある程度高めることは可能です。

「知識」とは、事柄を知っているかどうかということ。歴史的事件が起こった年だったり、理科の鉱物の名前なども、知っているかどうかということなので「知識」に当たります。そろばんや算数関連で言えば、九九だったり、もっと基本的なことで例を挙げれば、数字の読み書きも「知識」です。「知識」というのは、後からいくらでも取り戻すことが可能です。知識偏重教育だったり、知識を先取りする教育というのは百害あって一利なしと断言しても良いでしょう。

とはいえ、そろばん学習をする為には「数字」を知らなければ出来ないじゃないかと言われるかもしれません。しかし、そんなことはありません。そろばん学習は数字を知らなくてもできます。当学院の幼児教育は、その辺りの特性も利用したものになっています。

そして「知恵」
「知恵」とは自分の持っている「知識」を自分の「知能」と掛け合わせることで産み出す力のことを言います。当学院の重視する「基礎脳力」は、この「知恵」を高めることにフォーカスしています。また、「基礎脳力」を高めるためには子供たちの学習への取り組み方や、学習カリキュラムも極めて重要です。


インタビュアー:「基礎脳力」を高めるための学習カリキュラムについて、もう少し具体的に教えて頂けますか?

川西珠算学院では子供たち一人一人に応じたカリキュラムを作成しています。これは一人一人に最適な学習ペースが違うからです。子供たちの脳の発育スピードには個人差があります。特に、乳幼児から10歳くらいまでの個人差は極めて大きいのが実状です。他のお子さんと比べて学力的に遅れてるからと焦ると逆効果です。

特に「遅れている=劣っている」という決めつけは極めて危険です。

当学院では「早熟型の脳」「晩成型の脳」という表現をしていますが、「晩成型の脳」が劣っている訳ではありません。「晩成型の脳」の子供であっても、その子に合った学習を、その子に最適なスピードでさせてあげることで、少なくとも理数科目への嫌悪感などは発生せずにすみますし、じっくりと理数科目への学習に取り組む礎を身に付けることは可能です。一人一人が違う子供たちのそれぞれの脳の発育スピードを無視した教育ではなく、一人一人に合ったカリキュラムで学習を進めることが極めて大切で、そのことが結果的に子供たち一人一人の能力を最大限伸ばすことに繋がるのです。


インタビュアー:個人個人の脳の発育スピードを無視したらどうなりますか?

「早熟型の脳」の子に自分の年齢より上の学習をさせることは、それほど大きな問題になりません。(それでも度が過ぎると悪影響はあります)

しかし、逆に、「晩成型の脳」の子に「早熟型」の教育をするのは極めて危険です。

川西珠算学院は理数学習の礎である数の学習を専門にしています。ですから、子供一人一人の脳の発育状況を見極めながら、生徒の学習の進捗管理を行います。しかし、世の中には、「晩成型の脳」の子なのに、先に先に学習を急ぐ「先取り教育」をさせてしまって、その結果、残念ながら、算数が嫌いになり、苦手意識を持ってしまう子がたくさんいます。幼児期あるいは初等教育期に、理数学習が嫌になり、苦手意識がついてしまうと致命的です。一度身についてしまった苦手意識や嫌だという感情を払拭するのは至難の業だからです。その後の受験では間違いなく理数科目で苦労するでしょうし、後の人生ほぼ全般において理数系の学習を避けて通ることにも繋がりかねません。


インタビュアー:なるほど。では、最後に読者へ向けてメッセージをお願いします。

どうすれば子供たちの学習に対する取り組み方を意欲的で効果のあるものにできるか?

この問いに対する答えを最後にお話しておきたいと思います。

そろばんに限らず、勉強などの教育において、親は子供の学習を、どんどん先に進めたがります。

ちょっとでも先に先に・・・。
他の子よりも少しでも先に・・・。

しかし、知識の先取り教育は弊害が大きいというのは既にお話した通りです。もちろん、子供の意欲と学力が追い付いていれば、どんどん先に進めるべきです。しかし、そうでない場合、先に先に進めようとすればどうなるか。その前に身につけておくべき学習の基礎があやふやなので、難しい。わからなくなる。難しい(わからない)からやる気が起きなくなる。しかし先のことをさせられる。さらにわからなくなる。勉強が嫌いになる。というような悪循環に陥ります。本来、勉強は楽しい面もあるはずなのに、です。

基礎固めを絶対に疎かにしてはいけません。これでもかというほど、基礎を大切にするということです。しかし、基礎というのは大人から見ると、同じ部分を何度もやっていて意味があるのだろうか、単純な繰り返しでつまらないのではないかと思う事でしょう。大人目線ではそう感じるのも無理はありません。

 大人はできないことをやらせたがります。
 子供はできることをやりたがります。

「子供がやっているできること」は基礎固めに繋がっているケースは本当に多いです。そして、子供は、できることが楽しいので、やる気がでます。そしてタイミングを見て次のステップの学習に進める。こうしたことを繰り返していけば、子供たちの学習に対する取り組み方を意欲的で効果のあるものにすることができます。

子供の力を信じてあげましょう。


→川西珠算学院のサイト