海外進出に必要な心構え~国によって正しさや正義は違う

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そろばんは海外では違う価値を持つこともある


 弊社は海外でそろばん事業を展開しています。しかし、日本式の、日本と同じように、計算道具としてのそろばんだけを海外に展開している訳ではありません。もちろん、計算するそろばんとして、暗算ができるようになるツールとして海外に展開する場合もあります。しかし、そうではなく算数の基礎力をつける為、もっと突っ込んだ言い方をすると、数の基礎概念を理解する道具として、計算をしないそろばんの使い方(教育法)を提供することも多くあります。

そろばん教育とモンテッソーリ教育、レッジョ・エミリア教育

 幼児教育として世界的に有名なメソッドとしてモンテッソーリ教育やレッジョ・エミリア教育というものがあります。どちらもイタリア発祥の教育メソッドですが、モンテッソーリ教育を提供している教育機関へアドバイスをすることはよくあります。両教育法の詳細は割愛しますがモンテッソーリ教育は、レッジョ・エミリア教育と違って道具の活用が前提ということもあり、「そろばん」という道具への関心が高いということもあるのでしょう。

 「計算以外の使い方を含めたそろばん教育」は、少なくとも理数教育の分野について言えば、モンテッソーリ教育やレッジョ・エミリア教育に勝るとも劣らない教育効果はあります。しかし、この「計算以外の使い方を含めたそろばん教育」を体現するのに必要なことを、教育プロバイダー側が会得するには、多くの経験に基づいた、しっかりとした教育理論を確立しておく必要があります。

 その中で特に重要なことは、「国や地域によって正しさや正義は違う」、という前提を忘れてはならないということです。
そろばんで言えば、珠算や珠算式暗算で、計算力を上げようと思えば反復練習は必要です。しかし、子供たちに退屈な反復練習を強いるのは悪だと考える国は一定数あります。国内で反復練習は不要ですよ、というそろばん教室は皆無でしょう。

国や地域によって正しさや正義は違う

 この「国や地域によって正しさや正義は違う」というのは民族性だったり、その国の歴史に根付く価値観の違いから来るものです。そう簡単に変わるものではありません。ですから、「正しさ」の違いを適格かつ適切に評価し、ローカライズすることは、その国で事業展開するにはとても重要な作業となります。

 正しさや正義が国や地域によって違う、ということがピンとこない方もいらっしゃるかと思うので、一つのエピソードを通じて、国による(正しさの)違いの例を挙げておきたいと思います。


似たスポーツ競技が価値観で違うものになる


 私のとても仲の良い友達で学生時代にラグビーをやっていた人がいます。その彼の弟もラグビーをやっていて、ラガーマンとしてはなかなかの素質の持ち主だったのですが、全日本クラスになると才能の塊みたいな人だらけで、それを知ってプレイヤーとしての限界を知ったとのこと。しかし、指導者としての活動なら・・・ということで指導者としての道を歩み始めます。

 指導者研修でラグビー発祥の国、イギリスへ渡ります。そして、イギリスでの研修で子供たちへの指導法を学ぶのですが、最初はフィールドで、子供たちにラグビーボールを渡して「好きなようにやってごらん」と言うだけで、一切ルールなどは教えないそうです。その後、ひとしきりプレイした(遊んだ)子供たちに感想を聞きます。

すると、

「前に進むのにボールを前に投げるのは、ズルい気がする」

という声が出て、

「じゃあ、ボールを前に投げるのは禁止にしよう」

というルールが一つでき、次回はそのルールの下でプレイすることになりました。

 そして、決めたルールの下で、前回同様、特に何かを教えることなく子供たちを遊ばせます。プレイ後、また子供たちに意見や感想を聞くと

「ボールを持ってない人にタックルするのは卑怯だと思う」

という声が出て、

「だったら、ボールを持ってない人へのタックルは禁止にしよう」

 と、また一つルールができました。
 こういうことを繰り返してルールができていくのですが、不思議なのが、違う団体、違う子供たちを集めてやっても、最後には同じようなルールに落ち着くのだそうです。これがルールになり、できたのがラグビーというスポーツ競技です。

 同じようなフィールド、ボールを使うのに、全く違うルールになってできたスポーツ競技があります。アメリカンフットボールです。

「前に進むんだからボールを前に投げるのは当然として、その為にはボールが大きいからボールの大きさを小さくしよう」
「ぶつかり合うんだからプレイ中は防具をつけよう」
「守備と攻撃は役割が違うから分けようか」

 こうしてアメリカンフットボールのルールの基盤ができあがります。

合理性を重視するアメリカと紳士的な価値観が重んじられるイギリス

 合理性を重視するアメリカと、紳士的な価値観が重んじられるイギリス。これは「良い」とか「悪い」の問題でもなければ、「正しい」「正しくない」という問題でもありません。ましてや、どっちが「正義」でどっちが「悪」という問題でも当然ありません。

海外事業では価値観の違いを見極めよう

 これはスポーツ競技の一つの例ですが、教育や遊びでも同じようなことが起こりますし、海外での事業となるともっと複雑なことが起こります。比較的似た価値観を持つと考えられているアメリカとイギリスでさえ、上記のような違いが出るのですから、宗教や民族、言語、歴史的背景がもっと違うアフリカや中東では、頭の片隅にさえ無い、想像することさえ難しい課題がたくさん起こります。正直言うと、最初はどう対処してよいかわからず途方に暮れることだらけで弊社もたくさんの失敗をしましたし、高い授業料だったなと思うようなことも数えきれないほどありました。

 たくさんの経験を積んだことで、今は他社さんのお手伝いができるまでになりましたが、「国によって正しさや正義は違う」ということは、最初にお伝えする話なので、海外への事業展開が初めての方は是非、このことは心に留めておいて頂きたいと思います。

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