弊社は主にそろばんを軸とした事業を行っています。そして、その弊社の売上や利益率は年々成長を遂げています。新型コロナウイルスが最初に国内で確認され、緊急事態宣言が出た2020年こそ売上は減少しましたが、その後、何度も繰り返される新型コロナウイルス流行の波にも関わらず2021年からは再び成長軌道にのりました。
少子化がどんどん進む国内で、また、多くのそろばん教室が右肩下がりとなる中、弊社では逆に右肩上がりの成長曲線を描いています。どうしてこうしたことが可能なのか。そろばん教室を経営されている方はもとより、学習塾の方、子供向け事業をされている企業様のヒントになるかもしれないと考え、今回は、この秘密についてお話します。
そろばん事業を再定義する
そろばんは子供の習い事
「そろばん」事業と聞いて、どういったものが思い浮かぶでしょうか。おそらく、ほとんどの方は「子供たちが習いに行くそろばん教室」を真っ先に思い浮かべるのではないかと思います。他にも、そろばん道具を作っている企業(人)、それを売っている企業、教材を制作し販売している企業などもありますが、そろばん関係者でない限り、そこに思いが行くことは少ないと思います。
弊社は現在は法人として事業を運営していますが、前身は個人事業として、国内の多くの珠算教室と同様、「子供向けのそろばん教室」として運営していました。しかし、私がこの事業に本格的に携わることを決めた2005年から、時代や環境の変化に適応する為の事業戦略、経営戦略を採り、場合によっては事業転換、業種転換も厭わないという経営方針をうちだし、それを愚直に実行してきました。
余談になりますが、これができたのは私の会社員時代の経験が活きています。大学を卒業した後に入社したのはIT関連企業で、最初はSE(システムエンジニア)として仕事をしました。しかし、エンジニアとして働いていたのは数年で、その後は、会計やマーケティングを含むコンサルタントとして仕事をしてきたという経験は大きいと思います。
そろばん教室の定義
今の一般的なそろばん教室がやっていないことをやろう。
こう考えた訳ですが、その為には「一般的なそろばん教室」を定義できなければ話になりません。この辺は私の前職でもあるコンサルタントの職業病的なものでもありますが。
一般的なそろばん教室とは
「一般的なそろばん教室」を弊社では、以下のように定義しています。
●子供向けに運営。
●目的は子供たちの計算力や算数力、学力向上。
●検定試験を実施。
●場合によっては(教室によっては)優秀な生徒は競技大会に出場。
●そろばんは伝統的な日本の計算道具。その良さを伝える。
弊社の葛藤
今の一般的なそろばん教室がやっていないことをやろう。
こう考えたのは良いものの葛藤もありました。私自身、子供の頃に珠算をやっていて、競技大会での優勝経験もあります。だからこそ、自分の経営する教室で、自分の手で子供達を一流選手に育てたい。こういった欲望もありました。
しかし、マーケティングコンサルタントとして、そろばん業界を外から見ていた私は、「なんてもったいない業界なんだろう」と常々思っていましたし、そろばんの持つコンテンツパワーは本物だとずっと思っていました。だからこそ、自分の願いを通すことよりも、その本物のコンテンツパワーを活かす道を選択することにしました。
そろばんの持つコンテンツパワーは本物ですが、一般的にはオワコンだと思われているかもしれません。事実、そろばんを「計算結果を出すための道具」として定義すると、オワコンだと私も思います。しかし、そろばんというものを再定義し、きちんとマーケティングに取り組めば、劇的に復活できるという確信がありました。
こうして、弊社は一般的なそろばん教室がやっていないことをやることを決めました。
Survival of the fittest
新しい価値を創造し、社会に提供する
「survival of the fittest」という言葉があります。日本語で言えば、「(時代や環境に)最も適したものが生き延びる」という意味です。計算結果を出す為であれば、電卓やコンピューターがあるのでそろばんは間違いなく不要です。
だからこそ、時代や環境にマッチしたそろばんの使い方や意義、そして、それを必要とするマーケットに提供する、という当たり前のことに、まずはきちんと取り組むことが必要ということです。
弊社は、
「(そろばんでの)新しい価値を創造し、それを社会に提供することで世界に貢献する」
ということをモットーに事業を運営しています。
時代・環境に適応する3つの方向性
日本国内の少子高齢化が加速していくことは間違いない状況です。私がこの事業に取り組み始めた2005年から既に、その状況は確定していましたし、この文章を書いている2024年時点でも昨年の日本の出生数が75万人を割り込んだというニュースが世間を賑わせています。日本国内の少子高齢化が進むことが確実な状況では目を向けるべきは、従来のように近所の子供たち向け事業だけでは先細りになるのは火を見るよりも明らかです。そこで、弊社が取り組むことを決めたのが、
●高齢者向け事業
●海外事業
の2つで、まずはこの2事業に注力しました。
結果的には、この2つの事業活動をする中で、国内の子供向けも、従来の珠算教室が当時、目を向けていなかったことに取り組み、そろばんは時代遅れと、そろばん教室に目を向けなかった子供達やその保護者に選んでもらえるようになりました。具体的には、脳力開発を重視する、検定試験合格を主目的としない、大学で学ぶ本格的な幼児教育理論を踏まえた上でのカリキュラム作成、学習障害を有する児童への教育理論を確立、などが挙げられます。
結果、現在は、
●高齢者向け事業
●海外事業
●国内子供向けそろばん教室
の3つの事業を主とした事業展開をしています。この他にも、海外での事業経験を活かした海外進出サポートなどの事業も手掛けています。
そろばん式脳トレーニング®︎(高齢者向け事業)
弊社で最も伸びている事業です。国内に関しては、少子化で子供の数は減る一方、医療の進歩や健康志向の高まりのおかげで高齢者は増えています。事業の分母となる(お客さまの)数が増えているので、事業として伸びているのは、ある意味、当然かもしれませんが、初期投資は金額的にも時間的にもかなり費やしました。利益よりもまずは社会の役に立ちたいとの思いが強いので、今でも継続的に、この事業にはかなりの投資をしています。
インストラクター養成講座を定期的に開催し、インストラクターを育成することにも力を入れています。
高齢者施設、介護施設、老人ホームなど
高齢者施設や介護施設、老人ホームのレクリエーションは毎回、企画を考えるのは大変です。職員さんの負担も小さくはありません。しかし、レクリエーションを外注するとなるとコスト的には厳しくなります。そこで、高齢者施設、介護施設、老人ホームの職員さんや入居者さんがインストラクターの資格をとって、そろばん式脳トレーニング®を導入すれば、低コストで自立的に、効果的な認知症予防のためのレクリエーションを導入することができます。
サ高住、シニア向け分譲マンション、住宅型有料老人ホームなど
この事業のクライアントは施設や団体などの法人様が多いですが、個人での受講者もいらっしゃいます。サ高住(サービス付き高齢者向け住宅)や、シニア向け分譲マンション、住宅型有料老人ホームなどでは、まだまだお元気なシニアの方が、インストラクターの資格を取って、サークル活動の講師としてご活躍頂いています。
そろばん教室の先生
そろばん教室を経営されている先生や、これからそろばん教室を開塾されるという方がインストラクター資格を取られることもあります。少子化で子供の数は減っていて、少しずつ生徒が減少しているというご事情があるのでしょう。そろばんの先生方は、ご自身の教室でそろばん式脳トレーニング®のコースを開講されたり、カルチャーセンターや高齢者施設に教えに行ったり、公民館事業のイベントとして受託されたりしているようです。
その他、子供向け習い事の経営者
少子化の流れは加速しているので、そろばん教室に限らず、子供向け事業をされている企業や個人の方で受講される方も多いです。こちらは、弊社のそろばん教室ノウハウ提供で別途、現代に合わせたそろばん教室の経営手法などを学ばれ、子供向けのそろばん教室も併設されるという方もいらっしゃいます。
Youtube公式チャンネル
Youtubeのそろばん式脳トレーニング®公式チャンネルでは、個人でもお楽しみ頂けるよう、そろばん式脳トレーニング®を配信しています。下記で一部のトレーニングを紹介します。
海外事業
海外への取り組みを目指した理由は2つあります。一つは国内の少子高齢化、ということ。そして、もう一つは、今、国内でそろばんを習ってくれる子供たちが、将来、そろばんの先生になりたいと思ってくれた時に、そろばんの先生という仕事を仕事として成り立つようにしたい、との思いから始めた事業です。
子供の数が増えている国外
日本は少子化で子供の数はどんどん減っていますが、海外に目を向けると、子供の数が増えている国はたくさんあります。もちろん、日本のやり方をそのまま持って行って通用するほど甘くはありませんので、最初にきちんとFS(=フィージビリティスタディ/Feasibility Study)を行いました。最初に目指した国への進出は、その時点では延期となりましたが、FSで得た知見は非常に有意義でした。FSはそれなりの時間、人材、資金の投入は必要ですが、この時のFSは弊社にとっては大きく、今に至るまでとても役に立っています。
そろばんの先生という仕事をあこがれの職業に
弊社は、今、頑張ってそろばん学習をしている子供たちが大人になった時に、子供たちの職業選択の一つとして、そろばんの先生が有力な候補に挙げられるようにすること、そろばんの先生という仕事一本で十分生計が立てられるような状況を作ることを目指しています。
正直、海外でこじんまりと教室を開講することだけを考えれば、弊社がそれなりの収益を上げることは難しくありませんし、それだけであれば、何も、大きな労力を使ってきちんとしたFSまでやる必要はないかもしれません。しかし、将来的に、「今の子供たちの為に」ということを考えると、海外への先行投資は長い目で見たときに必ずやってよかったと思えると確信しています。
国によって最適な展開の仕方は違う
「海外」と言っても一括りにはできません。国や地域によってそろばん(あるいは暗算)のどこに魅力を感じてくれるのかが全く違います。よって国によっては訴求の仕方や対象もまるで違ってきますし、事業のやり方やカリキュラムも変わってきます。弊社はこれまで50カ国以上の国でのそろばんや暗算事業・普及の経験を通じて、国ごとに最適なアプローチを知り、そのノウハウを蓄積してきました。
そういえば、昨年、ある珠算教室の先生から「海外こそ 日珠連(日本珠算連盟)や 全珠連(全国珠算教育連盟)などの珠算連盟や協会が開拓の旗を振るべきですよね」と弊社の活動を労ってもらったのですが、珠算連盟にその役割を先導してもらうのは酷だと思います。なぜなら、珠算連盟の法人格は社団法人だからです。社団法人はリスクを取って将来への事業投資をするという性格の法人格ではありません。将来への海外事業の開拓を本気でやろうと思えば、どうしたってお金がかかります。 上述したFSも最初の段階だけでも一カ国あたり30万ドルくらいはかかりますし、本格的なFSをやろうと思えば100万ドル程度はかかります。そうした資金調達を社団法人がリスクを取ってできるかというと、それは無理です。だからこそ、そこはやはり我々のような民間企業がリスクを取ってチャレンジするべきなのです。
ビジネスパートナーと共に
当初は独資での展開を考えていましたが、現在は国内外の企業へのノウハウ提供という形で事業展開を行っています。基本的には取引相手(顧客)は個人ではなく、法人です。
国内企業に関しては、同様に少子高齢化問題を憂い、海外に目を向けた教育系企業へのノウハウ提供。海外では企業はもとより、政府機関や準政府機関などへの提案やノウハウ提供を行っています。
本音を言えば、この海外展開部分を公開して子供たちの未来に役立てたい思いが強いのですが、NDAの契約がある為、一部の情報をセミナーなどで話すことはできても、それ以上は難しいのが歯がゆいところです。
海外事業に関しては、弊社の海外での活動実績を評価して頂き、ODA絡みで外務省のプロジェクトや経産省関連の専門家からのご支援なども頂いております。2020年のコロナ禍で一旦、全ての海外活動がストップしてしまいましたが、今年の秋、リブート(再起動)をし、クールジャパンのコンテンツとして、東南アジア、中東、アフリカ、欧米など地域、国を問わず、展開していこうと計画しております。
また、コロナ禍前は、海外は子供向け事業のみでの活動でしたが、認知症というのが世界的な課題となりつつある昨今、そろばん式脳トレーニング®を活用した海外での事業も計画しています。
国内子供向け事業
実社会で、そろばんを使って計算をする機会が皆無といっていい現代、計算技能を高めるだけのそろばん学習ではなく、きちんとした幼児教育や初等教育理論の上に立脚したカリキュラムや教育方針で事業を行っています。AI(人工知能)の時代に必要な教育とはどういったものなのかについても、きちんと考察し、情報発信を行っています。
時代遅れだと思われていたそろばん教育が、捉え方を変えるだけで劇的に必要な教育になります。 人口減少が加速する日本で、今後、真に通用するグローバル人材を育成する為には、AI(人工知能) の本質を知り、国際社会で活躍できる考え方や生き方を子供たちには教授しなければなりません。
まだまだ従来の延長線上のカリキュラム、やり方で運営している珠算教室が多いですし、弊社が本社を構える大阪府豊中市の他のそろばん教室もいわゆる一般的な珠算教室ばかりです。そうしたことで、弊社のポリシーや事業運営が際立つのかもしれませんが、民間の学童保育などからの講師請負も含めて事業は伸びています。
奇抜なことをやっている訳ではなく、現代に必要な教育の本質をきちんと捉え、それをきちんと発信し、現代に合う形でマーケティング、プロモーションを行っているだけです。私自身がマーケティングコンサルタントだった経験があるからかもしれませんが、個人的には当たり前のことを当たり前にやっているだけという感覚です。当たり前のことを当たり前と気付くことは重要で、そこを見誤ることも多いようですが、当たり前のことを一つ一つのことを積み上げていくことができれば、まだまだそろばん事業というのは、伸び代がある、ということは断言できます。そろばんには、それだけのコンテンツパワーがあるということです。