さくらんぼ計算とは? そろばんとの関係も詳しく解説!

 最近、小学校1年生の算数ではさくらんぼ計算という方法を用いて繰り上がりのある足し算や繰り下がりのある引き算の学習をします。保護者世代には聞き馴染みのない学習かもしれません。

 今回は、さくらんぼ計算とそろばんとの関係を詳しく解説します。前半では、さくらんぼ計算とはどういったものかや、そのやり方、メリットとデメリット、さくらんぼ計算でつまずいた時はどうすれば良いかについて。後半では、そろばんとさくらんぼ計算の関係について、これからお子さんにそろばんを習わせようと思っている保護者の方や、現在、お子さんにそろばんを習わせている保護者の方に役に立つ内容を詳しく解説します。

 用語も含めて専門的な話も多いので、目次から興味のあるものだけお読みください。

さくらんぼ計算について

さくらんぼ計算とは?

 さくらんぼ計算とは、一つの数を二つに分解して計算をする方法です。数を分解するときの図解がさくらんぼの形に似ていることから、さくらんぼ計算と命名されました。これは小学校1年生の算数で繰り上がりの足し算、繰り下がりの引き算が出てきた時に、計算の考え方の理解を助ける為に学習します。

 さくらんぼの形にすることで、子供たちには親しみやすくなりますが、考え方自体は目新しいものではなく、繰り上がる足し算では加数分解、被加数分解として、繰り下がる引き算では減数分解、被減数分解として以前から存在していた考え方です。

さくらんぼ計算のやり方

例1)8+3

 まず、繰り上がりの例を示します。

 上のイラストのように、3の下に線を2本分けて引いて、その先に丸を描きます。その丸の中に3を二つに分解した数を書き入れます。合成して10になる数を作りたいので、「足される数=8」とセットで10になる2を片方には書き入れます。3を分解するので、もう片方には1が入りますね。ポイントは合成して10を作ること。そのために足す数を分解するという点です。これで、10+1という計算になり11という答えが導き出されます。

 なお、これは足す数を分解する加数分解のやり方です。
 ※足し算においては、足される方の数(a+bのa)を被加数、足す方の数(a+bのb)を加数といいます。

 3+9のような場合は3を分解した方が簡単に感じる生徒もいます。その場合は下記のイラストのように、3を2と1に分解するやり方でも構いません。

 これは足される数を分解するので被加数分解のやり方ということになります。ただ、ドリル用などで準備されているさくらんぼ計算の教材で被加数分解のやり方のものはあまりありません。

例2)13ー9

 今度は繰り下がりの例です。

 足し算の時と同様にさくらんぼの図で数を分解します。ここでは13を10と3に分けます。ここは10とその残りに分けるのがポイントです。作った10から9を引いて1。それと残った3を足して4という答えを導き出します。 

 これは引かれる数を分解する被減数分解のやり方です。分解してできた10から引く数を引いて、それに分解したもう片方の3を足すので減加法ともいいます。
 ※引き算においては、引かれる方の数(a-bのa)を被減数、引く方の数(a-bのb)を減数といいます。

例3)13ー9

 例2と同じ問題ですが違うやり方を示します。

 今度は引く数の9を分解します。まず13から一の位の3を取りたいので、さくらんぼの片方には3を入れます。9を分解するのでもう片方は6ですね。その上で13ー3=10。そこから分解した6を引いて答えは4、ということになります。

 これは引く数を分解する減数分解のやり方です。引く数を分解して、引かれる数から分解した2つの数をともに引くので減減法ともいいます。

さくらんぼ計算のメリットとデメリット

さくらんぼ計算のメリット

 数を分解したり合成したりすることは初歩段階の数感覚の養成にはとても有効です。そして10を一塊として扱うことで、十進法の考え方を理解する助けになります。また、これは桁の理解にもつながりますし、補数の考え方の理解にもつながります。「計算結果を出す」ということだけに焦点を当てると回りくどい方法でデメリットだと感じる方が多いですが、この仕組みの学習は、算数や数学的な思考力を育むという意味では有意義です。

さくらんぼ計算のデメリット

 既に計算ドリルなどで筆算の計算をやりこんでいる子や、そろばん式暗算のできる子には面倒に感じるだけで、必要性を感じることはありません。引き算で減加法のケースでは引き算であるにも関わらず足し算が出てくるのでかえって間違った答えを出してしまう子もいます。余計にわかりにくいという声も少なからずあります。また、答えが合っていてもさくらんぼ計算を使っていないことで丸をもらえないことで子供のやる気を削ぐこともあります。この辺りがデメリットとして挙げられます。

なぜ、さくらんぼ計算でつまずくのか?

 仕組みを理解する必要があり、これが小学校1年生にとっては難しく感じます。特に減加法の引き算の場合は分解して引いたのに、また足さなければいけないという仕組みの為、混乱しやすいことも確かです。また、そろばんをやっていたり、そろばんでなくても計算ドリルなどをやり込んで既にある程度計算力のある子の保護者から見れば、それまでスラスラと計算をやっていたのに、突然つまずいているように見えるということもあります。

さくらんぼ計算でつまずいた時はどうすれば良いか?

個人差はあるが過度に神経質になる必要は無い

 小学校の教員、先生からはクレームが来るかもしれませんが、結論から言えば、さくらんぼ計算で多少つまずいても(つまずいているように見えても)、あまり神経質に心配しなくても構いません。

 確かに、さくらんぼ計算は数を分解したり合成したり、10を作ったりなど、計算の仕組みや理論を理解するのに最適です。数学的思考力を育むという点ではとても優れた方法であることも間違いありません。ですから、こうした理論や仕組みをきちんと理解した上で計算に取り組む方が理想的であることは確かです。しかし、小学校1年生はまだまだ脳の発育途上であり、その発育の個人差は非常に大きいというのが現実です。発育の個人差だけではありません。理数学習への理解の仕方もばらつきがあります。特に、直感的思考段階にいる児童には、さくらんぼ計算の原理の理解が難しいことは確かです。直感的思考段階とは心理学者であるピアジェが唱えた認知発達のプロセスの一つですが、こちらのページでもピアジェの唱えた認知発達のプロセスについて触れています。興味のある方は併せてお読みください。

さくらんぼ計算を使わなくても計算ができている場合

 もし、さくらんぼ計算を使わなくても計算ができているのであれば、そのまま学習を進めれば良いでしょう。高学年以降では、さくらんぼ計算を使って計算をしなさいということは無いですから神経質に心配しなくても良い、ということです。仕組みや理論はもう少し後になってから振り返って学習すれば理解できるという子は多いです。数学的な思考力を育むのであれば、その時に振り返って考えてみるということでも補えます。

 詰まるところ筆算は、一桁の足し算や引き算のパターンを計算ドリルの反復で覚えてしまい、それを応用することで計算結果を求めるということをやっています。計算力を上げるには反復学習の量が物を言うことは確かなのです。
 ※参照 筆算とそろばんの計算メカニズムの違い

さくらんぼ計算をわかりやすいと感じている場合

 計算そのものが苦手だけど、さくらんぼ計算はわかりやすいというお子さんは、さくらんぼ計算にしっかり取り組みましょう。

さくらんぼ計算を使っても使わなくても計算が苦手な場合

 計算そのものが苦手でさくらんぼ計算でもわからないということであれば、おはじきなど物理的、視覚的にわかりやすいものを使い、繰り上がりや繰り下がりの計算の時は、10の塊を作ることを考えながら計算ドリルに取り組むと良いでしょう。ポイントは目で見てわかるもの、できれば手で触れて動かせるものを使うということです。そうした取り組み(学習)をしているうちに、数の感覚が少しずつ身に付いていきますし、それが計算にも活きてきます。

さくらんぼ計算の前提にもなる「数の感覚」が乏しいことも 

 さくらんぼ計算の前提として、合わせて10になる数を作るという作業があります。この10を作る時に、例えば

9といくつを合わせたら10になるか
8といくつを合わせたら10になるか

あたりの、あと少しの数を合わせれば10になるかを答えるのは容易にできるけれども

1といくつを合わせたら10になるか
2といくつを合わせたら10になるか

などのように、(子供たちにとって)大きい(と感じる)数を合わせなければ10にならないものを求めるのは難しいと感じる子は多いです。上記の3+9のところの例で説明したような、9に、あと1を合わせれば10なので、3を1と2に分解する被加数分解を使う方が易しいと感じる子がいるのは、この「あと少しの数」を合わせれば10になるかを答える方が簡単だから、という理由からです。

 このような合わせて10を作る数を求めたり、その為に数を分解したりする「数の感覚」が乏しいと、さくらんぼ計算の良し悪し以前の問題ということになります。

いつまでも、さくらんぼ計算で筆算をする訳ではない

 繰り上がりの計算をするのに、いつまでもさくらんぼ計算を使う訳ではありません。むしろ小学校1年生の2学期に繰り上がりや繰り下がりの計算が出てきた時だけしか使わず、その後は計算ドリルで、筆算の答えを導き出せるように反復学習をします。日本の算数の教育課程は計算力をつける、つまり自分の力で速く正確に計算結果を求める、ということを重視します。  ※これは欧米との大きな違いです

 このため、必然的に計算ドリルでの反復学習に多くの時間を割くことになり、さくらんぼ計算を使うことはなくなります。数学的な思考力を育むさくらんぼ計算は意義のある学習ではあるものの、少なくとも計算結果を求めるという点では、さくらんぼ計算の重要性は低くなります。ある程度の計算力が得られれば、さくらんぼ計算を使う必要もありませんから、小学校1年生の2学期の時点でさくらんぼ計算で少々躓いても、過度に神経質になる必要はない、ということです。

そろばんとさくらんぼ計算の関係

そろばんはさくらんぼ計算と同じ考え方

 そろばんは実はさくらんぼ計算と同じ考え方を採っていて、繰り上がりや繰り下がりでは10の分解や合成という作業をします。繰り上がりの足し算の場合では被加数分解ですし、繰り下がりの引き算の場合は被減数分解であり減加法そのもののやり方になります。参考までに下記に繰り上がりの足し算のやり方の一例を載せておきます。

例)4+8

 4を2と2に分解して、その2と8を合わせて10にする。

さくらんぼ計算よりそろばんの方が段階的に難化させることができる為取り組みやすい

 そろばん学習にも複数のカリキュラム(学習順序)のバリエーションがあり、それはそろばん教室によって違います。どのカリキュラムを採るかによりますが、採用するカリキュラムによっては、数の分解や合成という点では、そろばんはさくらんぼ計算よりも段階を踏んで学習を進められるので子供たちにとっては取り組みやすくなります。それが可能なのは、そろばんが二五進法(にごしんほう)の一種という特長を持っているからです。

 ※そろばんが二五進法(にごしんほう)の一種である、ということについて詳しく知りたい方はコチラのページでご確認下さい。

数の合成と分解の学習をより小さい数から始められる

 そろばんは、梁(はり)という部分で上下に分かれていて、一つの桁あたり、5つの珠(たま)があります。上側の珠を五珠(ごだま)と呼び、下側の珠を一珠(いちだま)と呼びます。一珠は一つの珠で1を表し、五珠は一つの珠で5を表します。

5の分解・合成を使う例
例)4+3

 一珠だけでは足せません。そろばんでは五珠があるので5を作ります。そのために足す数の3を1と2に分解して上記のイラストのように珠を動かします。
 引き算の考え方、理論はもう少し難しいですが、いずれにしても分解・合成で5を作るという練習を繰り返すことで、10よりも小さい数で反復練習をすることが可能です。このことで小さい数から少しずつ段階的に数を扱う練習、計算学習を行うことができます。

小さい数の計算から学習を始める為には

 そろばん教室によってカリキュラム(学習順序)が違うというのは既に言及した通りです。どういった学習順序を採っているかや、それに付随する学習がきちんと体系的になされているかで、ここで説明した小さい数の計算から学習できるかどうかは変わります。

 なお、そろばん教室用に作られている教材の中で、こうしたそろばん学習のメリットを最大限活かせる理想的な教材が見当たらなかった為、川西珠算学院ではこの部分の教材は自社で制作しました。

川西珠算学院 制作教材の表紙(一例)

 さくらんぼ計算だけでなく、幼児教育や初等教育では様々な工夫や学習法などが研究され少しずつ進化しています。川西珠算学院では、こうした教育の進化を常にウォッチし、理想となる教材を使用しています。そろばん教室用に作られている教材も使っていますが、理想的なものが無い場合はそれに代わる教材を自社制作して使用しています。上記で紹介した教材はその一部に過ぎません。

 子供たちの初等教育期間は限られています。よって、その期間をできるだけ実のあるものにしたい。少しでも後々の学習の助けになるようなものを提供したいと私達は考えています。

まとめ

 今回は、さくらんぼ計算及びそろばんとの関係などを詳しく解説しました。

 川西珠算学院でも保護者からさくらんぼ計算についてのお悩みが寄せられることは多いのですが、その際には、今回書いたような説明をさせて頂いています。そして後になって「先生の仰った通りでした。さくらんぼ計算で悩んでたのは何だったんだろう?」と100%言われます。本当に相談を受けた保護者全員に言われるくらいなので、あまり神経質になる必要はありません。安心して下さい。

 学校はどうしても集団授業であり学年ごとの教育課程がきちんと定められています。さくらんぼ計算に限った話ではありませんが、特に脳の発育に個人差がある幼少期は一人ひとりの理解度に応じた進め方で教育を受けるのが理想です。幼児教育期や初等教育期は学習そのものももちろん大切ですが、その後の理数教育の為には、子供たちに如何に興味を持たせ、やる気を喚起し、楽しいという気持ちを持たせられるかはとても大切な要素です。その為には、子供たち一人ひとりをきちんと見てあげること、理解度に寄り添った教育を提供することを大切に考える必要があります。